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猟斗はその後、ヴァルキリーらしき少女に声をかけようとしたが、余りにも忙しそうだったので一時的に止める。
とりあえず彼は、カウンターの席に着いて客が減るのを待つことにした。
「お客さん、何にしますか?」
猟斗が置いてあったメニューに目を通していると、店長らしき男性に尋ねられる。
「そうだな……」
彼はそう言うと、スパゲティとジョッキビールを頼んだ。
男性はかしこまりましたと答え、厨房に入って行く。
猟斗はとりあえず、これからどうしたものかと考えた。
ヴァルキリーらしき人物、彼女に話しかけようにもなんだか気まずい。
そんな事を考えていると、どこからか聞こえてきた歓声が猟斗の耳に入ってきた。
「なんだなんだ……?」
「っのクソ野郎!」
「やっちまえ!兄貴!!」
「ふん、俺様をなめんなよ!」
誰かが喧嘩を始めたらしい。
床に倒れている青年は口から出ている血を服の袖で拭い、睨みながら言葉を吐く。
一方、相手の筋肉隆々でスキンヘッドの大男は余裕綽々な笑みを浮かべ、指の関節を鳴らしていた。
「あれ、あいつ等は……」
猟斗は、彼らに見覚えがあった。
そう、アリアで行われた剣舞祭。
そこで猟斗に絡んできた二人が、その場で誰か知らぬ青年に喧嘩を始めていた。
「ありゃあ……マズいな」
歓声涌かす野次馬の隙間から喧嘩を覗く猟斗は、一方的にやられている青年を見ながら呟く。
「また喧嘩か……。いい加減にして欲しいもんだな」
「どういう事ッスか?」
いつの間にか、料理とジョッキのビールを持ってきたらしい男性が呟く。
それを聞いて、猟斗は何気なく尋ねた。
「ああ、最近あの二人。ここに入り浸って暴れまくっててな。誰か止めてくれないもんかね」
「そんなに困ってんスか?」
「そりゃもう。もし止めてくれんなら、報酬払っても良いくらいだよ」
猟斗の尋ねに、男性は苦笑しながら答える。
(いいことを思い付いた)
男性の答えに、猟斗は何か閃いたようで顔をニヤリと歪ませる。
「おっさん。あいつ等止めたら何かくれんだよな」
「あ、ああ。でも一体誰が――」
「俺が止めてきてやるぜ」
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