第六章 俺の戦い

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そこは、立っているとも浮いてるともわからない空間だった。   果てはなく、ただただ遠く。   彼は、白髪の少年はそこで無数に連なり、どこかへと流れていく鎖を見つめていた。   「いきなり……だな。いきなり俺の意識に介入してきやがって……」   「申し訳ありません。ですが燈谷」   「わかってるっつーの。だけどな、俺は今執行者抜けるつもりはねぇ」   白髪の少年、久我原燈谷は。目の前に現れた、煌びやかなドレスを着た女性に言い放つ。   女性はそれに、表情を曇らせながら返す。   しかし燈谷は両腕を組み、ガンを飛ばしながら答えた。   「俺に力を貸してくれんのはよ、確かに助かってる。だけどな、恩義があんだよ……。あの人にゃあな」   「……わかっていますよね。あなたには」   「わーってるよ。アレの事は……」   「それならばいいのです。では」   それだけ言い残すと、女性はその場から姿を消す。   燈谷はその場で立ち尽くし、そして空間は光に包まれた。       燈谷が目を覚ますと、そこは馬車の中だった。   前には駿に寄り添って眠るイヴ。   燈谷は立ち上がると、馬車の操者席に座るアルトメイカーの元へと向かう。   「おやっさん。あそこまで後どれくらいかかりそうなんだ?」   馬車のカーテンを開けて、燈谷は馬を操っているアルトメイカーに尋ねる。   彼はそのままアルトメイカーの隣に座ると、夜空を仰ぎ見た。   「少なくとも、後三日は掛かるよ」   「げっ、そんな掛かんの!?車かバイクがありゃあなぁ……」   アルトメイカーの答えに、燈谷はしかめっ面で返す。   そして元居た世界が、どんなに便利だったかと思った。   「仕方ないさ。この地域は車もバイクも流通してない。だから我慢してくれ」   「そうは言ってもよぉ……」   アルトメイカーの言葉に、燈谷は後頭部で手を組んで再び空を見上げながら返す。   「なあ、アルトメイカー。上乗ってもいいか?」   「構わないよ。揺れで落ちないようにね」   アルトメイカーがそう答えると、燈谷は喜んで馬車の上に登っていく。   そしてそこで寝転んだ。   (今はまだだ。今は……。だから、時が来るまで我慢しろよ。時空の皇女さんよ……)   そう、心の中で呟くと燈谷は瞳を閉じる。   そしてそのまま、馬車に揺られながら彼は眠りについた。
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