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スクリーンがするすると降りてきて、カウントダウンが始まった。
……ちょっと待て、おかしいだろ――ローマ数字だと?
他の世界でも勿論数字の概念は存在するが表し方が全く違う……言語変換の魔法のおかげで違和感があったとしても『1』が『ONE』になる程度だが……今回は完全にローマ数字だった。
カウントダウンが終了し、現れるのは浜辺に波が打ち寄せられる光景とその奥から徐々に近づいてくる『東映』の二文字……。
「…………」
――間違いない、地球の……それも日本の映画だ。
その映像が消え、現れるのは濁った水の中で何者かが自分が何者かを問う声……。
それは元いた世界で社会現象を巻き起こし、俺も当時何度も見たアニメ映画の第一作目……。
「――っちょ! ……んぐ!」
一斉に視線が集中する……その全てが静かにしろといった目をしていた。
「――失礼しました~」
「――んぐ!? ……ん~!!」
ずりずりと引きずられながら……。
「……静かにしろ、ついでに暴れるな――」
別にそれ自体は構わない……少し落ち着く必要も出てきたし――ただ、1つだけ願いが叶えば従っても構わなかった。
「――ん~!! ん~!!」
「――うるさい、少し黙れ!」
せめて口か鼻――どちらかは解放して欲しい……人間は皮膚呼吸だけで必要最低限の酸素を確保出来ないのだから。
「――なんだ、観ていたいのか? 仕方ない、静かにするならしばらく観ていよう」
「ん~!! んぐぐ! ん~!!」
――どっちでもいいから手を離せ!
因みに、言葉にならないのでいくら必死に伝えようとしても言語変換魔法でも伝わらない(現実逃避)
「――ああ、もう……観たいのか観たくないのかどっちだ――仕方ない、ほらこっち来い!」
後に彼女曰わく、死に物狂いで暴れる俺を抑えつけて会議室を脱出した……。
口と鼻が解放されるまで2分を越えており、当たり前の空気の有り難さを体感するという、誠に有り難く無い経験をした。
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