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『マスター』
「うん、これをかけるのよね」
持ってきた包みから『日本酒』という種類のお酒を取り出した。
なんでもお父さんの故郷ではそれを墓石にかける事で故人の冥福を祈るらしい――お父さんはあまりお酒を飲まなかった人だけど……。
遠くから3人程歩いて来た。
「――誰か先にいる?」
「……ああ、ハイネだな」
「おはようございます、ハイネさん」
「皆さん、おはようございます」
数少ないお父さんの過去を知る人達だった。
「――えっと、他の方々は?」
「いろいろだよ、ただ正午にはこれるように努力するって言ってたね……私たちは用が無いわけではないけど部下に押し付けてきた」
「うわ、ここに鬼がいるよー」
「ツェリ、自分だって同じ事してきただろ」
そう言って2人は笑いあった……スピカさんにも若干の笑みが見て取れた――お父さんの前でしんみりしないためだろうがそれでも無理やりといった感じだ。
「――皆さん、訊いてください」
すると全員が私を向いた。
「――やっぱり私、やりたいと思います」
すると、全員がお互いを目で合図した。
そしてしばらくの沈黙の後、アズサさんが代表して口を開いた。
「――それが『渡辺恭介の娘』ではなく『渡辺ハイネ』個人の意志なら止めるな……そしてその場合、私達は極力協力してはならないと頼まれた……自分の足で見てからなら答えて構わないらしいけどね」
そしてアズサさんはそっぽを向いた。
「……恭介の日記を解除する――それは恭介の魔法の統括権限所有者であるあなたでも難しいと言わざるをえない」
スピカさんはそう判断をした。
「――恭介は知られたくないからあんな複雑な術式を組み立てたと思うんだけど……まあ、この程度解いてみろって残した可能性もあるから怖いけどね」
とはツェリさん。
「――私は父さんを超えます、それが私の夢で……叶える方法はそれだけしか残ってません」
あんな出会いの私を許すどころか命を助けた上、引き取ってくれた時からの思いを口にした。
「……大層な夢だ――私たちでさえ隣を歩む事さえ困難だったというのにお前は前に出るというのか?」
アズサさんは私の不相応な夢を嘲るでもなく、最後の確認といった風に訊ねてきた。
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