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ミツェルネティアの保全隊基地の入り口は、会社のロビーといった様子だった。
「すみません、試験を受けに来た者なんですが、基地の中を歩いて構わないでしょうか?」
入り口にある机に座っているスーツを着た女性に話しかけた。
「ようこそ、保全隊ミツェルネティア基地へ――自分の出身世界と名前をお願いできますか?」
型通りの挨拶が帰ってきた。
「――えっと、ロスト・フラグメントの場合はどうしたら」
「あ、失礼致しました――主に過ごされている世界で構いません」
俺がクサンフィアナの渡辺恭介と返答すると、彼女の頭の上に3頭身の妖精みたいなのが現れた。
『渡辺恭介――該当あり、該当あり』
「ありがとうね、フィン」
妖精みたいなのはフィンというらしい――用事がすんだのか、ふっ……と姿が消えていった。
「――でも、おかしいですね……クサンフィアナからは約1時間後に到着の予定ですが」
「一刻も早くつきたかったので学校はサボりました」
しれっと言ってみると、一瞬彼女は呆気にとられ、その後心底可笑しそうに笑いだした。
「あらあら、いけない人ですね……この身分証を首から下げていれば、今日1日なら機密エリア以外に立ち入り、見学――隊の許可が出たなら訓練も可能です」
「――どうもありがとうございます」
許可証を受け取り、首にかけた。
「――あの、私の顔に何か付いていますか?」
「あ、いえ……」
そう言って俺は視線を逸らし、周囲を見回した。
軍隊ではないため、服務規程は無いので様々な服装をしているが……。
「……あの、一つお訊ねしたいのですが?」
「――はい? 何でしょうか、お答えできるものならお答えしますが」
馬鹿馬鹿しいと思いつつも、俺は訊きたくて仕方がなかった……。
「――その耳、本物ですか?」
「……は?」
彼女の髪からはみ出た『ふさふさ』した耳が、予想外の事を訊かれたからか、ひょこっと動いた。
「――ああ、なる程……私のような獣人(ライカンスロープ)に会うのは初めてですか?」
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