とある一つの物語

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「私達のことを説明する前にもう一度訊いとくけど‥‥」 また少女はこっちを見つめてくる。 「本当に人間よね?」 「当たり前」 溜め息混じりにそう言うと、「そ、ならいいわ」と言って話始めた。 「まず、この世界には神様がいるわ」 「え?」 「いいから黙って聞く!知りたくないなら別だけど」 「ごめん‥‥」 もう、あんな光景を見てしまったんだ。どんなファンタジックな話が出てきてもちっとも変に思わないようにしよう。 少女は木の枝を取り、地面に四角を描いて、二つに区切る線を引く。 「世界が二階建ての建物だと仮定して、私やあの鎧着込んだ天使が二階に住んでるとする。人間は勿論一階」 二階に二人と、一階に一人、それぞれ棒人間を描く。 「鎧の天使や私達は、クリエイターって呼ばれてる。創造者って意味ね。鎧の天使も私も、神様がこの世界を消すために造ったモンスターなの」 自分をモンスターと呼ぶ少女がいるとは驚きだ。 少女はジュースで口を潤しながら説明を続けた。 「クリエイターには、世界を消す能力と造る能力があるの。世界丸々消すのには時間がかかるけどね。鎧の天使がそれをやってる。私達はそれを食い止めるのが仕事」「なんで、君みたいな人がいるの?」 「それは‥‥私達は人間で言う天才ってやつかな?クリエイターにもたまに感情を持って生まれてくる者がいるの。それが、鎧の天使から世界を守る戦士である私達」 缶に残ったジュースを全て飲み干したようだ。缶を逆さまにして振っている。 「あの鎧天使は何故世界を消そうと?」 「鎧の天使じゃなくて神様の意思ね。自分が造ったものの、世界の寿命を縮めている人間への罰かな?」 「神様も最初からちゃんと造ればこんなことにならずにすんだのに‥‥」 「それは、人間で言う、誰にでも過ちはあるってやつよ」 少女はそこまで話すと立ち上がった。 「んーん、説明終わり」 伸びをする少女は、手に握られた缶を30メートル先のゴミ箱に向かって投げようと構えた。 そこで、少女が描いた図を思い出した。 「ねぇ、この図って描いた意味あったの?」 缶を投げるのを中断し、少女が振り返る。 「ん?あ!」 どうやら忘れていたらしい。 「そうだった、このことも説明しなきゃ」 またベンチに腰を下ろすと、缶を置き、木の枝に持ち替えた。 わざわざなんで説明してくれるのかは、この際置いておこうかな。
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