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雨が短い糸のように降り注いでいる。 暗雲は見える限りの空を全部覆い、その侵略地を地上にも伸ばす勢いだ。 もちろん、そんなことはないのだけれど。 こんな日にコンビニに出掛けるのは、気が進まない。 母親にでも頼もうかとも思ったが、ここのところ昼間は姿を消す習慣ができたようでもう家にはいなかった。 きっとこんな息子に愛想が尽きたのだろう。 女手一つで育てた一人息子がこれだ、悲しくならない方がおかしい。 仕方なく、傘を持ち外に出る。 早速の雨水の出迎えを俺の顔が受け止めた。 気持ち悪いほどヌルい梅雨の雨水は、少し新鮮だった。 コンビニで買い物を済ますと、足早に家路に向かう。 その途中の空き地に目が止まった。 売却中の看板の立ち、雑草が、ここは我が土地と言わんばかりに、20m四方の空き地に蔓延っている。 真ん中に見える三つの土管は、まんま金曜7時のアニメに出てくるレイアウトで配置されている。 小さい頃、売却中の看板も何のそのと、よくここで遊んだものだ。 「アイツともここで……」 そこで思い出すのを止めた。またあの事を考えてしまいそうだ。 そうして、俺は空き地を離れようとした。 「ん?」 そこで違和感に気がついた。 何かが土管の中から飛び出しているのだ。 それもほんの数ミリだけ土管から出ている。 そのまま、通り過ぎようかととも思ったが、好奇心が俺を捕まえてしまった。 悪戯防止の簡易的柵を越え、土管に向かう。 近づくにつれ、それの正体が掴めてきた。 それは…… 人の髪の毛だった。 だが、ここまで来ると、もう好奇心は俺を止めることをしない。 好奇心に背中を押されるようにして、俺は、土管の中を覗き込んだ。 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 思わず情けない声を上げてしまう。 だって、人がいたのだ。 Tシャツだけを身に着けた女の子が、うつ伏せで。 それだけならまだいい、その子には、その子には…… 「猫耳ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」 俺は生まれてこの方、猫耳の生えた人間など見たことが無い。 そういう特殊な者を好む、人間がいる事は知っていたが、それは次元の違う話だ。 ここは、三次元、二次元じゃない!なのに何で?何で?
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