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「わぁ!雪だぁ!!」
急にしんしんと雪が降りだし、一人で歩くボクの横を子供たちがはしゃぎ、走りだす。
今年はずっと雪がなかったが、この急に冷え込んだクリスマスの夕方、ついに降りだした。
ボクはその場に立ち止まりそっと右手をポケットから出し、その柔らかく冷たい雪に触れる。
雪はポケットで暖まったボクの指先に触れると、少しだけ形を留めすぐに溶けて消えた。
その様子はどこか儚く切なく、そして愛しささえ感じた。
ボクは片手にコンビニのビニール袋を持ったまま、少し重い足取りで家を目指し歩きだす。
「…ただいま」
声は誰もいない暗い部屋に虚しく、吸い込まれるようにして消えていった。
ボクはビニール袋を下ろし、暗いままの部屋で中から二人用の小さなケーキを取り出し、二つの椅子が向かい合わせに置いてあるテーブルの真ん中に置く。
二つのお揃いの皿、二つのフォーク、二つのワイングラス、コンビニに置いてある安物のワイン。
それらを木製の小さなテーブルの上にのせる。
そして、ケーキの上に蝋燭を一本だけ立て、マッチでそっと火を灯す。
--蝋燭に火を灯そうとする手が震えた。
--蝋燭に火を灯す。
---涙が溢れてきた。
自分でも驚くほど、すごい量の涙が溢れ出る。
親友からの誘いのメール、もう会うことのできない彼女とボクの写る楽しそうな写真、彼女との思い出がたくさんつまるこの部屋……
--この部屋にはボクの涙を止めることのできるモノはなにもない。
この世界中を探したとしても、そんなモノは存在しないだろう。
ボクはぼやける視界で蝋燭の火をじっと見つめる。
外にはクリスマスの幸せそうな音楽が鳴り響いている。
彼女がいなくなってから初めてのクリスマス。
1人ですごすクリスマス。
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