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僕はコートを羽織り、街中を歩いていた。
時間はまだ九時になったばかり。手にはさっきの黄色い紙が握られていた。
前からはたくさんのカップルが歩いてくる。
何組のカップルとすれ違うのか、最初のうちは数えていたのだが20を越えたあたりで馬鹿らしくなり、それ以上に悲しくなったので止めた。
手に持つ紙にもう一度視線を落とす。そこには何度見ても変わることなく『サンタクロースの助手を募集中です』の文字。
いつもの僕ならこんな怪しい広告など完璧に無視するのだが心的状況が状況だったので、暇だったのも手伝い思わず家を外に飛び出したのだ。
なんか危なそうな建物だったらすぐに帰ろう。
つーか、ちょっと覗いたらすぐに帰ろう。
今の僕を動かしているのは好奇心以外なかった。
「このへんの……はず」
僕は地図を頼りにそれらしいモノを探す。
それはすぐに目についた。
赤と白の洋服、帽子、つまりサンタクロースの衣装に身を包んだ可愛らしい女の子がデカイ看板を掲げて、そこを通る子どもたちに笑顔を振り撒いていたのだ。
そしてその看板には『サンタクロースの助手を募集中です』の文字が蛍光塗料で大きく書かれていた。
僕はその女の子の笑顔を見て、帰ろうか帰らないか少しだけ迷った。
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