104人が本棚に入れています
本棚に追加
終電が間近になった駅のホーム。その床へと大粒の涙を落とし、しゃくりあげ続ける女性がいた。
歳は20歳前後といったところだろうか。
闇夜に白く姿が浮かび上がるのは、その長身に纏っているコートのせいだ。それはとても高価な事で名を知られるブランド製の物。
しかし近づいて見ると、所々に茶色い薄汚れが付着しているのがわかる。
その染みは払えば取れるものもあるだろうに、彼女はそれをしないでただひたすら悲痛な泣き声を上げていた。
ガタガタと震えながら、その場所に立ち尽くす足。多分…痺れが廻り、完全に感覚を無くしているだろう。
なぜなら、その足には何も履いていないからだ。
本来なら少しでも足を暖めてくれるはずのそれは、彼女の右手に握り締められていた。片方だけ残った白いヒール。
踵が折れていて無惨な姿を曝している。
吹きすさぶ木枯らしは、刺すような冷たさで彼女を蝕んでいた。
身体も……心も。
その狭いホームには彼女の姿しかない。快速の停まらぬ片田舎の駅に、夜中に人がいないのは当たり前だといえるが。
最初のコメントを投稿しよう!