末期の雪を弟に

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 宮沢賢治は妹の末期、庭の雪を椀に掬って食べさせたと、小学生の頃に伝記で読んだ。伝記と言っても、漫画だったが。  他にも様々な偉人の伝記を読んだが、何故か宮沢賢治が、しかもその場面だけが、やけに記憶に残っていた。  その原因はひょっとすると、将来同じ経験をするのだと予感していたからかも知れない。  そう苦笑して、僕は窓から庭を見下ろした。  今の時代の雪には、少なからず有害な化学物質が含まれているだろう。悲しい。  漫画で見た雪の絵は白く、細やかで、食べても問題はない。口の中を冷やし、すっと喉の奥へと消えて行くだろう。  そう思わせる程に綺麗だった。
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