末期の雪を弟に

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 今、窓の外に雪は無い。そもそもこの辺りでは、なかなか雪は降らないのだ。  吹き込む北風に肩をすくませた。窓を閉め、階下の弟の部屋へと向かう。  元は同室だった僕達だが、弟の発病と同時、部屋を離された。弟の部屋に入るのは、日に一度だけだと言われた。  なるたけ階段が軋む音を立てないように降りる。弟を驚かせない為だ。  階段の右手の突き当たり。祖父の仏壇があり、常に線香の仄かな匂いが漂う和室が、弟の部屋。  僕は静かに襖を滑らせた。 「お兄ちゃん」  灰色のカーディガンを羽織った弟が、嬉しそうに微笑みながら僕を見た。 「今日は調子が良さそうだな。何を読んでいるんだ」
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