末期の雪を弟に

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 日によって弟の体調はころころ変わる。弟の手には本。見覚えがある。宮沢賢治の、あの漫画の伝記だ。 「納戸からお母さんが持ってきてくれたんだ」  僕が持っていたものだった。中学に上がる頃には読まなくなり、納戸に片付けたのだ。  小学生の弟には丁度良い暇つぶしになっているらしく、真剣に目で台詞を追っていた。 「僕ね、この場面好きなの。妹に雪を食べさせるところ」  弟が僕にその本を向けた。何度も開いたページだ。  まさか弟が同じ事を言い出すとは思っていなかったので、少し驚いた。
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