末期の雪を弟に

9/10

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 中に入る。母と父、祖母が弟の蒲団を囲んでいる。僕はそろそろと弟の顔を覗き込んだ。  目は開いている。しっかりと、僕の目を、透き通る目で見ている。 「お兄ちゃん。雪、降ってるんだよね」  弟の部屋からは外は見えない。何故知っているのだろう。誰かが話したのだろうか。  僕の手を、弟はそっと掴んだ。力無い指先は震えていて、冷たい。  そして笑いながら、弟はあの台詞を言ったのだ。 「雪、取ってきて」  僕はすぐに庭に出た。裸足のままで。積もるほども降っていなかったけれど、垣根の上に、少しだけ固まりがあった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加