愛玩具

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――2023年―― 愛玩具の発売を心待ちにしていたから、昨晩は一睡も出来なかった。 貯金だけでは足りず、消費者金融にまで手を出して、僕は半年前から愛玩具を予約していた。 一体どんな素敵な子が届くのだろうか。 興奮のあまり、布団に二度ほどボディスラムを食らわした。 それでも足りず電気から垂れ下がる紐で軽くシャドーボクシング。 ――ピンポーン。 インターホンが鳴ると、僕はハンコを持ち玄関へと走った。 心はボクサーのまま。 扉を開けると、二メートルはあろうかというダンボールを抱えた宅配業者が立っている。 ――今日の相手は、こいつか。 そんな妄想を抱きながら、僕は対戦相手の言葉を待つ。 「お届け物です。印鑑かサインお願いします」 宅配業者の顔を軽く睨みつけた後、ニヤリと笑みを浮かべた僕はハンコを目いっぱい握り締めると、紙にこれでもかと押し付けた。 ブルブルと震えた自分の右手が、妙に痛々しい。
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