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「裕之っ、こばわ!」
深夜一時。終電も終わったこの時間に、美樹は決まって玄関のチャイムを鳴らす。
「よっ、もう準備出来てんぞ」
俺は、こたつを出る事無く美樹に返事をした。
1Kの狭い部屋だから、これで充分に伝わるのだ。
「もう! 可愛いレディにお出迎えはないわけ?」
わざとらしく頬を膨らませながら、美樹が部屋に入ってくる。
いちいち反応が子供っぽいが、これでもアナウンサーの卵だって言うのだから驚きだ。
まあ、俺には美樹の仕事なんか関係ないけど。
「いいだろ、別に。とっとと飲もうぜ」
こたつの上に置かれたペアグラス。美樹はブツブツ文句を言いながらも俺の向かいに座り、その片方に手をかけた。
そして、俺は乾杯の音頭をとる。
「じゃあ、聖なる夜に乾杯!」
「……もう、カンパーイ!」
グラスが触れ合う音が狭い室内に響き渡る。
俺が飲むのはお気に入りのブランデー。
そして美樹が飲むのはいつも決まって、カルアミルクだった。
「それにしても、今日くらい何か飾り付けたりしないわけ? 毎日来てると見飽きるんだけど」
美樹が部屋を見渡しながら言う。
確かにここは、必要最低限の物しかそろえていない殺風景な部屋ではあった。
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