カルアミルク

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***  午後十時。かったるい仕事を終えて家に帰ると、俺の部屋の前で、冷たい手を吐息で暖める事もせず、ただ俯いて立ちすくむ美樹と目が合った。 「ん?今日は早いんだな」 「……うん。ちょっとね」  俯いたまま答える美樹。 「合鍵あるんだから、部屋に入ってれば良かったのに。寒いだろ外は」  今日は雪は降っていないものの、気温はかなり低い。  明日には大雪が降るという予報もあった。 「……まあ、入れよ」  押し黙ったまま何も答えようとしない美樹に、一つ言葉を繋いでから俺は部屋の鍵を開けた。  ズボラな俺が、朝に暖房をつけっ放しにして部屋を出たため、既に部屋の中は暖かい。  温度差で頬を朱に染めた美樹を誘導し、こたつに入らせる。  そして俺は、いつものようにブランデーとカルアミルクを用意するのだ。  いつもは何も無くても乾杯をするのだが、今日はそんな気分にはなれなかった。 「どうしたんだ、美樹。何かあったのか?」  ブランデーを口にしながら、俺は美樹に問い掛けた。  それに対する美樹の答えは、思いがけないものだった。 「……裕之はさ。私が遠くに行っちゃったらどうする?」
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