第一章

3/12
前へ
/35ページ
次へ
そこは、懲罰房だった。 趣味の者が収容者を連れ込み、帰さない場所だ。 その証拠に隣接して焼却施設があり、動かなくなった身体を灰にすることができた。 一通りの拷問器具が並んでいる。 「脱げ」 言ってから気づいた。 この男にドイツ語が通じるか分からないではないか。 しかし、言葉など必要はない。 獣姦を望む人間が相手と会話したいと思うか。 反抗なく男は脱いだ。 どうやら少しは理解できるらしい。 ここではその一言ですなわち何も纏わずにいろという意味になる。 鞭と火傷の跡が肩から腹にかけて、そして左の前腕には入れ墨がある。 「386911」 ここの収容所は様々な者たちが送られてくる。 下等と見なされたものたちばかりだ。 まず、金儲けしか能がないユダヤ人たち。 次に何も生産性のあることをなさないジプシィ、主にロマ族と呼ばれる放浪者たち。 そして、心身障害者、共産主義者、政治犯、刑事犯に同性愛者。 386911番の胸部を見た。 そこははだけていて、彼の「罪状」を示すワッペンが無かった。 連行される途中あたりに破られて、もう階級付けする必要もなかったので放っておかれたのか。 メアリもどうだって良かった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加