雪降る冬空

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 その一時間後に、雪菜は容態が急変し、そのまま息を引き取った。  僕は何とか辿り着いた丘の上で、自転車を止めながら、青く澄んだ空を見上げた。  「ずるいよ、雪菜は。結局、何が足りないのか教えてくれないんだもんな」  僕はもういない人に語りかけた。神も霊魂も信じないが、死んだ人に語りかけるぐらいは、自分で許す事にしている。  僕は荷台からイーゼルとキャンパスを下ろして、丘の頂上にセットした。油絵の具の道具を用意しながら、何度も何度も空を見上げた。  「でもね、分かっちゃったよ。雪菜」  僕は空に向かって、意地悪く笑った。それは雪菜への、本当に最後の反撃のつもりで。  「僕の絵に足りないものが、何なのか」  そう言って僕はキャンパスを染める。下書きも何もしていない真っ白なキャンパスは、それでもあっという間に染められてゆく。  今日はクリスマスだ。聖なる一日だ。  僕はキリスト教でも何でもない、ただの不神主義者だけど、それでもこの日ぐらいは、センチメンタルに浸ってみるのもいいだろうと思う。  僕は描き上げた絵を、丘の頂上に置いたまま、自転車に跨がった。  「雪菜」  僕は、僕が描き上げた絵に向かって、呟いた。  「僕、今では、雪も大好きだよ」  いつ無くなるかも分からない絵を見つめて、僕は言葉を繋げる。  「空は、雪に隠されるんじゃないんだ」  キャンパス一杯に描かれた、雪の降る空の絵。  「空は雪の陰に隠れてる時が、最も美しいんだよ」  その絵の中に、本当に僅かに姿を覗かせる、青空がある。  それが僕の答えだった。  「雪菜」  僕はもう一度だけ、最後のつもりで彼女の名を呼んだ。  「さよなら」  そして僕は、雪の絵を残したまま、丘を下っていった。  その日、晴れるはずだった僕の町は、二年連続のホワイトクリスマスを迎えた。
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