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下では、カウントダウンが始まっていた。
群集の中で、誰かが「30秒前!」と鋭く声を上げた。
それを皮切りに、29、28、27!と人々の声が重なり合っていく。
私は空を見上げた。
低い、どす黒い雲がそこに渦巻いている。
本当に今にも雪が降って来そうだ。
ポケットから、握り拳大の箱を取り出した。
鈍く銀色に光る表面を一撫でして、安全ロックを外す。
毒々しい、真赤なボタンが姿を現す。
10!9!8!
人々が声を合わせて、数えている。
起爆のその時を、私に告げてくれている。
5!4!3!
ボタンに親指を乗せるのと、背後から声をかけられるのは一緒だった。
「押すの?それを押すの?」
瞬間的に振り返った。
そこには……白いダッフルコート。真赤なマフラーと、片手だけ手袋をした、あの少女が居た。
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