序章

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12月の街は、賑やかで煌びやかで慌しい。 「師が走る季節」とこの国の人々は称しているらしい。 最も、勤勉な彼等は常に忙しそうではあるが。 クリスマス・イブの今日は、いつもより更に人の波のうねりが激しい。 駅前、繁華街の入り口に面したその公園には、今年も巨大なツリーがそびえ立つ。 根元には、キラキラしたラッピングを施した何十個ものプレゼント・ボックスが飾られている。 モールやリボンでめかし込んだツリーは、夕方5時になると更に美しくなる。 身に纏った幾百もの電飾が、その時間になると点灯するからだ。 現在の時刻は午後4時35分。 公園には続々と人が詰め掛けて来ている。 脇の特設ステージでは、児童合唱団がクリスマスソングを時に厳かに、時に元気良く歌い続けている。 凍てつく寒さに彼等の頬は可愛らしく林檎色に染まり、口からは微かに白い息が出るのが見て取れた。 一曲終わるごとに、詰め掛けたギャラリーから拍手が沸き起こった。 私もやる気無く手を打ち合わせつつ、注意深く辺りに目を配っていた。 耳元に付けたイヤホンが、囁いてくる。 「こちらノアール。配置に付いた」 「ルージュだ。逃走経路、問題なし」 「公安に発見されないように気をつけてくれ。こちらブランシェ、異常なし」 無意識に、口が笑みの形に歪んでいた。 上手く行っている、今のところは。 全くこの国の人々も、警察も、平和ボケにも程が有る。 ジャンパーの襟を立て、その内側の小型マイクへと喋りかける。
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