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「こちら、シエル。同じく異常なし。私も今から配置に付く」
「どうだい、まわりの奴らは?」
「浮かれているよ、幸せそうにな。みんな雪が降るのを心待ちにしている様だ」
この駅前ツリーには、一つのジンクスが存在した。
クリスマス・イブ。
5時になり、電飾が点灯すると同時に雪が降り出すというのだ。
数年前から連続して起こっているその奇跡を一目見ようと、年を重ねるごとにギャラリーが増えていく。
「いい気なもんさ、今年どんなことが起こるとも知らないで」
ルージュの言葉に、イヤホンからはくぐもった笑い声が重なって聞こえてきた。
今年、彼等が遭遇するのは奇跡では無い。
厄災だ。
「さぁ、そろそろ移動しようぜシエル!」
「了解、ノアール。バーニング・クリスマスへのカウントを始めよう」
私はジャンパーのポケットに隠し持った遠隔操作のスイッチを服の上から撫でると、人ごみを縫って歩き出した。
私達を銘打つならば、多数決の敵。公共の敵。パブリック・エネミー。
解りやすく言ってしまえば、テロリストだ。
今年、駅前に雪は降らない。
代わりに素敵な火柱が上がる。
私達の贈り物は人ごみの中心に。
そう、あのツリー。
根元に無数にディスプレイされた、プレゼントの箱。その中の一つに紛れ込んでいる。
私達から、彼等への、素敵な素敵な厄災の火種。スイッチは、私のポケットの中に。
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