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はにかんで笑いながら私の腕を掴む。小さな手には、これまた赤い毛糸の手袋。
私の顔を見上げて、だがその瞬間彼女の顔から笑みが消えた。
「……貴方、いえ、貴方達、ね。……なんて、事かしら。ちっとも気付かなかった」
子供じみた口調がいきなりがらりと大人びたそれになる。
訝しげに私が眉を潜めたのと、彼女の愛らしい紅い瞳が私を直視したのは同時だったと思う。
ふいに、ぐらりと意識が歪んだ。
パウンッ、パウンッ。乾いた発砲音が続けて聞こえてくる。
「姉さんっ!」
泣き叫ぶ声は、私のモノ。
まるでコマ送りの映像を見ているかのようだった。
姉の身体が、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。
大地に広がる、赤い色。
ハッピーメリークリスマス!
今日は神様の、お誕生日。故に、戦争はお休みです。
ふと、我に返る。
それは数瞬の出来事だったのか。
何だ?今のは?
私は一人、雑踏の中立ちすくんでいた。
クリスマスソングは、先程と同じモノ。
体格の良い中年男性が、私の前を通り過ぎていく。
目の前に転んでいた筈の少女は……居ない。
こめかみを押さえて、軽く頭を振った。
おいおい、白昼夢か?
大役を任されて、精神的にキているのか?
「しっかりしろ、なにやってんだ馬鹿!」
酒も薬もきめずに、幻覚を見て昔の記憶をフラッシュバックするなんて、どうかしている。
小さく自分自身を叱責して、私は手の中の「ソレ」をズボンのポケットに捻じ込んだ。
「シエル、配置に付いたか?」
イヤホン越しの声に、なんとか平静を装って答える。
「あと5分で到着予定」
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