聖夜の奇跡

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『え……!?む、六輝くん何時から起きて…………六輝くん?』  いきなりのことに慌てる菜乃花だったけど、俺の様子に気付いたのか、心配そうに顔を覗き込んでくる。  俺はそれを嫌うように菜乃花を抱き寄せて、肩口に額を寄せた。 『きゃっ……』  小さく室内に響く菜乃花の声。 『………………ごめん』 『……』 『ごめん……なさい……ッ……』  ――ごめんなさい。  ごめんなさい……。  うわ言のように繰り返し呟く。  菜乃花の服を掴む俺の手に力がこもる。 『ごめんなさい……』  俺がもっと強ければ、母さんを守れたのに……。 『母さん……』  いなくなってから、初めてあなたの大切さに気付きました。 『六輝くん……』 『…………六輝』 『え……?』 『六輝って言って……』  すがるように、求めた。  菜乃花に、母の影を重ねた。  それは、逃げなのかも知れないのだけれど。  それでも、菜乃花は俺の欲しいこたえをくれると感じていた。 『六輝……』  そっと優しく囁くと、俺の背中に手を回して、宥めるように撫でてくれる――……。  菜乃花は俺が落ち着くまでずっとそうしていてくれた。 『ありがとう……』  母に。  菜乃花に。  俺は感謝の言葉を呟いて、そっと瞳を閉じた。  この日から、俺は菜乃花に惹かれ始めていったんだ……。
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