聖夜の奇跡

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『しょうがないなぁ……ほら』 『……』 『そんな警戒しなくても、もう何にもしないって』 『……』  ひらひらと手を振る菜乃花に、背を向け、俺は無言で歩き出した。  けど、このまま立ち去るのは何だか寂しい気がして。  数歩進んだ足を止め、俺は背後で掃除を再開している菜乃花に声を掛けた。 『……菜乃花』 『ん?』  俺の声に振り返った菜乃花の視線に、顔が熱くなるのを感じる。  けど、俺だって照れてばかりじゃないんだ。 『た……だいま……っ』  小さな小さな、蚊の鳴くような声。  覚悟が萎んでいくのを、身を持って感じる。  カッコ良く決めるつもりだったのに、声震えて……情けないなぁ。  立ち去りたい衝動に駆られ、それでも頑張って菜乃花をがん見する。  菜乃花は、これでもかって位に嬉しそうな笑顔を俺に向けてくれた。 『はい、お帰りなさい』 『……っ』  こころはゆっくりゆっくり交わって……。  少しずつ、菜乃花をしってゆく。  ねぇ、あなたの瞳には、俺はどう映ってるのかな?
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