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『……』
離された手に少しの寂しさを覚えながらも、無邪気な菜乃花の後を追う。
菜乃花は食い入るように、あるぬいぐるみだけを見つめていた。
『ね、ね!これ可愛い!』
そう言って菜乃花が指差すのは、中でも一際目を惹く、特大サイズのくまのぬいぐるみ。
『欲しいの?』
『……っ!な……なわけないでしょ!?言ってみただけよ!』
聞く俺に対して、顔を真っ赤にして否定する菜乃花。
素直過ぎて笑える。
『……くはっ』
『……っ!?か……帰るわよっ!!』
半ば引きずられるようにして、お店の前を去るなか、俺はもう一度縫いぐるみを見つめた。
主を待ちわびるかのように、どっかりと腰を下ろしているその縫いぐるみを。
街は一足も二足も先に季節を先取りし、数日前までのハロウィンの気配は欠片もない。
クリスマスムード全開の街並みの中、俺は菜乃花と家路に着いた。
再び握りしめられている袖には気付かないフリをして―……。
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