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『……ッ』
『ね、菜乃花。今日はクリスマスだよね?』
『うん……』
『目、瞑って?』
『……?』
言われるがままに瞳を閉じる。頭の上、くすりと笑う気配がして、瞬間、頬に何かふわりとしたものが触れた。
『開けていいよ』
『……』
ゆっくりと瞼を上げ、気配の正体を確認する。
それは、小さな掌サイズのくまのぬいぐるみだった。
『それしかなくて……』
『……っ』
『ごめんね?』
はにかんで顔を覗き込んでくる六輝に、私はただただ首を振る。
『ありがとう……ありがと……ッ』
『今日はね、サンタが願いを叶えてくれる日なんだ……本当に欲しいものをくれる日』
六輝が私を抱き締めなおしてくれる。私は六輝の胸に頭を預けた。
『俺の願いは叶ったよ』
『何?』
『“菜乃花に会わせて”って』
『……』
『菜乃花』
身体を離して、じっと覗き込んでくる優しい瞳。
少しはにかんだ、愛しい顔。
『六輝……私……六輝のことが、す…………』
ことばは最後まで続かず、それは六輝の唇によって遮られた。
一瞬、触れただけの温もり。耳元に六輝の声が聞こえた。
『メリークリスマス……』
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