第八章:渦巻く陰謀、訪れた別れの時

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ここは、縁側に沿るように設けられた近藤の部屋。 「っ!?」 その室内にて、近藤と向き合うように座っていた土方は、突如感じた寒気に身震いした。 「どうしたんだ歳?」 「い、いや…何か今悪寒が…」 気のせいか?と周りを見渡す土方を、近藤は豪快に笑い飛ばす。 「アッハッハ!おおかた、今回の謹慎組の奴らの怨念じゃないのか?総司なんてカンカンに怒ってたもんなぁ。小倉くんを迎えに行きたかったって」 何を隠そう、華乃の迎えをクジ制に決めたのは、他ならぬ土方だった。 「…ケッ、餓鬼が。アイツら三人は、あの吉田達を目の前にしながら、みすみす逃げられたんだ。普通は切腹もんだぞ」 昨日、逃げられたと思っていた吉田が、高杉や岡田を連れて舞い戻って来たと聞いた時は驚いた。 しかしその後、小倉の作戦にまんまとハマったあげく、またしても逃げられたと言うのだから、もう歯痒くてならない。 そこで土方は、永倉、原田、沖田を謹慎処分に命じたのだった。 「しかし…さすがに可哀想じゃないか?あの小倉くんが相手だったんだ。逃げられたのも仕方ないだろう」 そう近藤から軽くたしなめられ、土方はガシガシと髪を掻く。   「わーってるよ!だから謹慎だけで許してやったんだ!俺だって騙される自信がある!」 「いや…そこで威張るなよ」 胸の前で拳を握って力説する土方に、近藤は呆れたように呟いた。 その時、 ガシャァアア!! 部屋と庭を繋ぐ縁側の障子が、見事音を立てて吹っ飛んだ。 パラパラと破片が散る中、ようやく姿を現した人物に、土方と近藤は目を見開く。 「あらら…ここは玄関じゃなかったようですねぇ」 「間違えちゃいました」とわざとらしく言い、ニッコリ冷笑を浮かべるその者は、彼らもよく知っている… 「小倉ぁ!?」 土方は喉が裂けんばかりに叫んだ。 対する近藤は、額に手をあてうずくまっている。もはや文句も言う気さえ起こらないのだろう。 「…あのクジ、土方さんが作られたんですってね?ふふ、素敵な歓迎をありがとうございます」 華乃は笑顔を絶やさず、一歩ずつ土方へと近づいていく。 外れた障子の上を歩くものだから、その度にグシャリと鳴る音が、妙な恐怖心を煽った。 土方の頬を一筋の汗が伝う。 「…覚悟は…よろしいですか?」 その後の様子は、それはそれは凄まじかったと、近藤はのちに隊士達に語ったという。  
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