7614人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
華乃が帰ってきたという噂は、瞬く間に屯所中に広まった。
隊士達は彼女の姿を一目見ようと近藤の部屋に向かったが、中から聞こえてきた凄まじい破壊音に、即、回れ右をして元来た道を引き返した。
そんな部屋の中では…
「てっめ…!丸腰相手に刀を抜くか普通!?」
ハァハァと肩で息をする土方と、涼しい顔で刀を構える華乃の姿があった。
「ちゃんと手加減してますよ。ほら、実際生きてるじゃないですか」
「嘘つけぇ!俺が避けなきゃ確実に死んでるぞ!」
刀によって切り裂かれた土方の服は、既にボロボロになっていた。
それでも無傷だというのだから、奇跡に近い。
「わざと外してあげてるんですよ。より恐怖を与える為に」
「余計にタチが悪いわ!」
そう叫びながら、土方はジリジリと後ずさる。
するとその時、ヒュンッという小さな音と共に、頬を風が撫でた。
小倉に向かって飛んでいったソレを認識するよりも早く、アイツは刀の柄を使ってソレを弾き落とした。
大した運動神経だと改めて思う。
ただ問題だったのが…
ガシャァァン…!
床に落ちたソレが、『割れた』ということだろうか。
土方がギギギと機械的な動きで後ろを振り向くと、そこには苦笑を浮かべながら頭を掻く近藤がいた。
「すまんすまん、手が滑ってしまった」
「す、滑ったぁ?って、湯呑みが一体どうやって…」
そう、今や破片と化したソレは、近藤の湯呑みだったのだ。
土方が近藤を疑わしげに見た時、またもや頬を何かが掠める。
ザクッと音を立て、近藤のすぐ隣の壁に突き刺さったのは、華乃の愛刀だった。
「…こうやって」
目を限界一杯まで見開き愕然とする土方に、華乃はニコリと爽やかな笑みを向けた。
「手が滑ったんですよきっと」
そして次に近藤へと視線を移し、
「ねぇ?近藤…さん?」
一層笑みを深くする。
対する近藤も、クッと口角をあげて笑った。
「ああ、そうやって手が滑ったんだ」
「ふふ、ですよね。でも、顔面狙いで湯呑みが飛んできた時はビックリしましたよ。まさか貴方に限って、わざとだなんてある訳ないですもんね」
「当たり前だろう?君に怪我が無くて良かった」
「その割りには残念そうな顔してましたよね」
「気のせいだよ、気のせい」
にこにこと笑いあう二人。そんな彼らに挟まれていた土方は、身体中の体温が一気に下がった気がした。
最初のコメントを投稿しよう!