第九章:帰ってきた少女、変わらない日常

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華乃が帰ってきたという噂は、瞬く間に屯所中に広まった。 隊士達は彼女の姿を一目見ようと近藤の部屋に向かったが、中から聞こえてきた凄まじい破壊音に、即、回れ右をして元来た道を引き返した。 そんな部屋の中では… 「てっめ…!丸腰相手に刀を抜くか普通!?」 ハァハァと肩で息をする土方と、涼しい顔で刀を構える華乃の姿があった。 「ちゃんと手加減してますよ。ほら、実際生きてるじゃないですか」 「嘘つけぇ!俺が避けなきゃ確実に死んでるぞ!」 刀によって切り裂かれた土方の服は、既にボロボロになっていた。 それでも無傷だというのだから、奇跡に近い。 「わざと外してあげてるんですよ。より恐怖を与える為に」 「余計にタチが悪いわ!」 そう叫びながら、土方はジリジリと後ずさる。 するとその時、ヒュンッという小さな音と共に、頬を風が撫でた。 小倉に向かって飛んでいったソレを認識するよりも早く、アイツは刀の柄を使ってソレを弾き落とした。 大した運動神経だと改めて思う。 ただ問題だったのが… ガシャァァン…! 床に落ちたソレが、『割れた』ということだろうか。 土方がギギギと機械的な動きで後ろを振り向くと、そこには苦笑を浮かべながら頭を掻く近藤がいた。 「すまんすまん、手が滑ってしまった」 「す、滑ったぁ?って、湯呑みが一体どうやって…」 そう、今や破片と化したソレは、近藤の湯呑みだったのだ。 土方が近藤を疑わしげに見た時、またもや頬を何かが掠める。 ザクッと音を立て、近藤のすぐ隣の壁に突き刺さったのは、華乃の愛刀だった。 「…こうやって」 目を限界一杯まで見開き愕然とする土方に、華乃はニコリと爽やかな笑みを向けた。 「手が滑ったんですよきっと」 そして次に近藤へと視線を移し、 「ねぇ?近藤…さん?」 一層笑みを深くする。 対する近藤も、クッと口角をあげて笑った。 「ああ、そうやって手が滑ったんだ」 「ふふ、ですよね。でも、顔面狙いで湯呑みが飛んできた時はビックリしましたよ。まさか貴方に限って、わざとだなんてある訳ないですもんね」 「当たり前だろう?君に怪我が無くて良かった」 「その割りには残念そうな顔してましたよね」 「気のせいだよ、気のせい」 にこにこと笑いあう二人。そんな彼らに挟まれていた土方は、身体中の体温が一気に下がった気がした。
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