メリークリスマス

6/11
2276人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
  ちらりと時計を見る。 時計は8時半を表していた。 あと30分くらいかぁ…。 あ、ケーキもいるかな? 苺のショートケーキ、母さんと父さんが唯一同じ好きな食べ物だもんね。 サンタ乗ってるやつ買おっと! 僕はお金をポケットに入れ、家を出ていった。 ガチャリと、鍵が開く音が鳴る。 長い黒髪に、左目に泣き黒子のあるスーツ姿の女性がけだるそうに玄関に入って来た。 段差に座り、頭を押さえながら壁にもたれる。 「浹(トオル)ー、浹ー?風邪薬と水持ってきてー」 しかし彼女が呼んでも、家の中は静まり返っている。 いつまで経っても来ない息子に、彼女は眉間にしわを寄せた。 「ちょっと聞いてるの!?浹ー!」 彼女は鞄を掴み、電気のついたリビングに入る。 ガタンッと勢いよく開けたリビングには誰もいない。 だが、テーブルには食器やワイン、キッチンにはサラダと鍋があった。 「…?何これ」 彼女は鞄を放り投げ、キッチンにある鍋の蓋を開ける。 白い湯気が立ち込め、中にはシチューが入っていた。 よく見るとオーブンにも七面鳥がある。 彼女はハッとして、カレンダーを見た。 「…そっか…今日はイヴなんだっけ…」 その時、ドアが開く音がして、男性がネクタイを緩めながらリビングに入って来た。 そしてテーブルに並べられた食器を見て、目を見開く。 「何だお前、料理出来たのか」 「私じゃないわよ」 「じゃあ何だ?幽霊でもいるってのか?」 「浹よ」 「…浹が…?」 彼は信じられないというような顔をしたが、フッと笑っていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!