メリークリスマス

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  「…そうか、あいつがな…。何も言わない奴だったが、やはりまだまだ子供のようだな…」 「どうして?こんな料理が作れるんだから、凄く成長したじゃない」 「馬鹿だな。あいつは俺達三人でクリスマスを過ごしたいんだよ。 …あいつも、俺達に似て不器用なようだ」 「あなた…」 ガタン、とドアの開く音がして、二人は玄関に急いだ。 浹は驚いて、目を見開く。 二人の視線は、絆創膏だらけの浹の手に注がれていた。 「あ…お、お母さん、お父さん、お帰りなさい」 「浹…」 「…勝手なことして、ごめんなさい。でもね、僕母さんと父さんのために…」 「わかってるわ、浹」 「…ほわっ」 ぎゅう、と彼女は浹を抱きしめた。 暖かい母の腕の中。 「(…母さんの匂いだ…)」 「その…仕事ばかりで、悪かったな、浹。お前に構ってやれなくて…」 「(…父さん…)」 浹の目が潤む。 彼女は、浹を抱きしめながら頭を撫でた。 「私達が馬鹿だったわ…ごめんね、浹」 「…お、母さん…僕、いい子…?」 「ああ。お前は私達の自慢の息子だ!」 「…お、父さん…ふぇ、ぅ、うぇえん…」 浹は泣き出し、母親にしがみつく。 母はそれをしっかり抱きしめ返していた。 父は浹の頭を撫で、母に微笑みかける。 二人は、笑っていた。 「美味しいじゃない!」 「ほお。流石俺の子だな。将来はコックか?」 「えへへっ。僕なれるかなぁ?」 「私が料理くらい教えてあげるわよ」 「お前に任せたらなれるものもなれないだろうな」 「あーら、言ったわね? じゃあ明日は私がすっごいご馳走作ってあっと驚かせてやるんだから!」 「ホント!?僕母さんの手料理食べたい!」 「それは楽しみだな」 三人は笑う。 それは、誰もが羨むほど仲のよい家族の姿だった。
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