別れた男

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 自爆。   今の私には、こんな言葉がぴったりくる。  今宵は聖夜。  街には、互いを温めあうかのように仲睦まじく寄り添い、愛を囁きあう恋人たちで溢れている。      ……どいつもこいつも平和ぼけした間抜け面並べやがって……  私は足早に歩を進めながら、マフラーに鼻まで顔を埋め、ひとり毒づいた。  昨日、5年間付き合った彼氏と別れた。  生まれて初めて付き合った彼氏だった。  別れた原因は、連日続いた些細な喧嘩と、彼氏の優柔不断な性格に、将来の不安を感じたから……という、我ながらひどく曖昧な理由。    しかし、漠然とした不安程、人を不安にさせるものはない。  私ももう24歳。頼りのない男に無駄な夢をみる時間など残されてはいないのだ。  とはいえ、別れた時期がひどすぎた。  世間の、このどうしようもないくらいの甘ったるい空気が、傷心の身にはこたえる。    もやもやと渦巻く心の内が表情や、歩く態度に表れているのか、人々は、怯えたような目付きで私の横を行き過ぎる。  身を切るような孤独だ。  ……やばい、泣きたくなってきた。  
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