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月の光一つ射さない、世界に闇が忍び寄る時間。暖炉の火によってもたらされる光のみがユラユラと揺れる部屋の中で、その男はギリギリとした感情のままに、叫んだ。
「もし! 私に世の全ての文豪に勝る文才があったなら! この憎しみを詩にしただろう!」
そう言うと男は紙とペンをとり、読んだ者の心を一瞬で憎しみの言葉で満たす程の詩を書いた。
「もし! 私に世の全ての画家に勝る絵の才能があったなら! この憎しみを絵にしただろう!」
そう言うと男はキャンバスと筆をとり、見た者の心を一瞬で憎しみの色に染め上げる程の絵を描いた。
「だが! 私にはどちらの才能も無い! ならば! 私はこの憎しみを何で表現すればいい!」
悩む男は頭を抱えてうずくまり、床に自らの頭を叩き付けた。
皮膚の裂けた男の額に、鈍い痛みが走る。
「痛み……傷……そうか、破壊だ! 何の才能も持たない私に! この身一つあれば出来る唯一の憎しみを解放する方法は……破壊しかない!」
そう言うと男は先ほど詩を書いた紙を滅茶苦茶に破り、絵を描いたキャンバスを叩き割ると、ごうごうと燃え盛る暖炉の中へと投げ入れた。
それは一瞬で炎に呑まれ、パチパチと言う音と共に燃えていく。
「……はぁ……ちょっとスッキリ……」
こうして男の才能は世に知れることなく、灰となった。
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