風と、光と、海原と

全ての終わりと全ての始まり

　
「愛する彼女が忘れられない」

アレッシオ・ヴェリオッティ氏がこんな言葉を残していなかったら、一人息子のルカはきっと生まれていなかったことだろう。ただ、この言葉がなければ、あんな悲劇もおそらく起こることはなかったはず。

――ヴェリオッティ氏はイタリア北部のミラノ市中心部にある由緒正しい屋敷のとある一室で本を読んでいた。

コンコンとノックする音がして、彼は顔を上げて扉を見つめた。

「どうぞ、お入り」

間もなく扉がスーッと開き、少しして無言で一人の若い男が入ってくる。