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高橋の話によると、なんでもクリスマスねるとんパーティーなるものが都内某所で開かれるらしい。
その場所と言うのがバス通りから外れており、車持ちで独り身のパートナーを探していたと高橋は嬉しそうに顔を綻ばせた。
そして車を走らせる事20分、辿り着いたそこは、いかにも肝試しで使われていそうな廃墟ビルであった。
時刻は19時を回っている。パーティーはもう始まっているはずだが、気温の低さも相まって嫌な予感が拭いきれない。大きく一つ深呼吸をして、高橋に問い掛ける。
「最悪を想定しておこう。高橋、この状況において最悪とはなんぞや?」
「釣り、ですね。会場に男しかいない、とか」
「そうだな……その男たちがガチホモである場合まで考えておくべきだろう、いいな?」
「わかりました。さすがにそれ以下はないっスよね」
はは、と笑いながらも高橋は顔をひきつらせる。奴もそれなりに不安を感じているらしい。高橋の情報源が駅前でもらったポケットティッシュに付いていたチラシと言うのも、実にいかがわしい話だ。
「ああ、もし釣りだったら、『お宅の息子さんはモバゲーで女の子にミニメばっか送ってます』と、お前の三親等あたりまでメールすることになるが、いいな?」
「よかないですよ! 大丈夫ですって!」
「お前の大丈夫はアテにならないんだよな……」
俺の不安をかき消すようにして、空からはらはらと白い雪が降り始めた。
先に覚悟を決めたのはやはり高橋だった。高橋は好奇心=行動力=スケベ心を絵に書いたようなバカだが、そのほとんどが裏目に出るので憎めない奴でもある。
「先輩、行きましょう! 雪ですよ雪! 『ホワイトクリスマスだね……僕らの出会いに乾杯』とか言いたいでしょ! さあさあさあ!」
「不安だ……」
とにもかくにも、高橋に背中を押されるようにして、いざ会場へと足を踏み出した。
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