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必死でその場を取り繕い、逃がすまいとしがみつくオバニーに十字固めをおもくそかまして外に出ると、あたりは一面銀世界と化していた。特にリアクションを取る事もなく車に乗り込み、ハンドルに突っ伏すようにして俺は再び泣いた。
ああ、俺って奴は。後輩の甘い誘いを信じ、出会ったばかりの女を信じ、どこまでおめでたい奴なんだ。
信じる者は救われる? バカな、危うくツボツボ詐欺に引っ掛かる所だった。というかチューされてたら確実に買ってました。
雪よ、ああ雪よ、今日の出来事を全て覆い隠してはくれまいか……!
悔い。身を切り裂くような悔い。
そしてフツフツと込み上げてくる、怒りという名の激情。
高橋、俺はお前を許さない。
かじかんだ手で携帯を操り、奴の四親等まで例のメールを送りつけた。
まだ俺の怒りは収まらない。
アイツさえいなければ、俺はクリスマスだと言うことすら知らぬまま講義を受け、輝かしい社会人への道程を一歩前に進めたはずなのだ。アイツさえいなければ、アイツさえいなければ――
俺の中で何かが弾けた。
殺そう。捕まってもいい、高橋を殺そう。
エンジンをかける。待ってましたとばかりに車のライトが詐欺ビルの入口に立ち尽くす高橋を捉えた。
「高橋テメエエええぇぇ! 死ねえええぇぇぇ!!」
絶叫しながらアクセルを踏み込み、一直線に高橋目がけて走り出す。
あと20メートル。
10メートル。
5、
4、
3
刹那の瞬間、俺は思い切りブレーキペダルを踏み込んだ。
殺すのを躊躇したわけではない。俺は見てしまったのだ。
奴が両手一杯の大きなツボを抱えているのを……!
「止まれ! 止まれえええぇぇぇ!!」
減速はするものの、雪でタイヤが滑る滑る! 滑らんといて!
ドガシャアンッ
結局高橋は3メートルほど吹っ飛ばされた。
「うわあああぁぁぁぁ!! 高橋イイィィィ!!」
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