209人が本棚に入れています
本棚に追加
「高橋! しっかりしろ! 高橋!!」
「先輩……すいませんでした……俺……自分が恥ずかしくて……!」
「なにも言うな! わかってる! 全部わかってるから!」
頭を抱えるようにして抱きしめると、高橋は力なく笑った。
「明美に伝えといて下さい……夢を、ありがとう、って……!」
「バカ野郎! お前、全然血ぃ出てねーよ!」
「え?」
鳩が豆鉄砲をくらったようなアホ面をして、高橋は体を起こした。
「ホントだ、全然痛くない……でも、なんで……?」
「アレ、見てみろよ」
俺が笑顔で指差した先には、粉々に砕け散ったツボの残骸が。
「明美が……守ってくれたのか」
涙ぐむ高橋。救いようのないバカだが、吹っ飛ばしてしまった手前ツッコめない。
「そうだよ! お前、番号もらったんだろう!? いいなぁ! うらやましいぜこの野郎!」
「はは……お礼、言わなくちゃ、ですね」
高橋は俺に抱きかかえられたまま携帯を取出し、ツボと引き替えに手に入れた番号にコールを試みた。
固唾を呑んで見守る俺。10秒ほどの沈黙の後、高橋はゆっくりと首を振った。
「駄目でした。やっぱり、騙されてたみたいですね。8万も出して……はは……」
笑えなかった。
「バカ! このバカハシ! さっきぶつかったショックで壊れたんだよ! そうに決まってる!」
高橋は捨てられた子犬のような目付きで俺を見上げる。
「先輩……うわあああぁぁぁぁんおんおんおんおん」
おんおんと泣きだした高橋は、何を思ったのか雪を掬って食べだした。
本当に何を思って食べているのか小一時間問いただしたい所だが、吹っ飛ばした手前ツッコめない。
「うまいか? 高橋。滅多に食えるもんじゃないからな」
もはや妖怪ユキクイと化した高橋から返事はなかった。俺は構わず話しかけた。そうせずにはいられなかったから。
「そうだ、今度雪が降る時にはシロップ持ってこような、うん。メロン味がいい……ほら、クリスマスツリーみたいだろ」
自分でもよくわからないフォローをしつつ、俺たちはガチホモ丸出しで抱き合ったまま、高橋は雪を食い、俺はひたすら泣いていた。
夜が明けるまで、ずっとそうしていた。
――翌日当然のように腹を壊した高橋の新ギャグで、この切なくも悲しい物語に幕を下ろそうと思う。
「ゲリークリスマス」
最初のコメントを投稿しよう!