記憶繋

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 ガタンガタン。  心地のよいリズム。それは俺の眠りを深いものから浅いものへと変えていった。 「う……、ああ~」  ぐうっと伸びをする、固くなった身体がほぐれていい気持ちだ。  高校一年の夏休み。彼女もいなく、暇だった俺は単身電車に乗り込み、特に荷物も持たず日帰りの旅をしてみようと思った。思い立ったら早い方なので、すでに電車に乗り込んでいるというわけだ。  窓の外をふと見てれば、見るところすべて山、山、山……。 ぼーっと窓の外を眺めていると、ふと不思議な気持ちになった。 「……なんか、見覚えがあるなあ」  不意に景色の流れが緩やかになった。どうやら速度を落としているようだ。  アナウンスもなしに、停車?反対側の窓の奥には無人駅。  何の気なしに、俺は外に出た。見渡す限り緑が目に入る。田舎だ。  しかし空気は澄んでいで、どことなく懐かしい。 「来た事あんのかな~……」  携帯電話の液晶を見てみると、時刻は一時を回ったところだった。  無人駅から一歩、外に出てみる。 「やっと来た」  俺は一瞬びくりと身体を震わせて声がした方向を見た。  そこに立つのは同い年くらいの女の子。腕を組んで頬を膨らませていた。 「遅いよ、ゆうくん」  懐かしさが熱波のように俺の身体を襲った。ゆうくん、いままで誰もそんな風には呼んだことがないのに、とても懐かしい感じがした。 「聞いてる?杉原 勇司くんっ!」  その女の子は俺にでこピンをした。 「あたっ、ひどいな、夏葉」  女の子は眼を開いて驚いた表情をした。そして俺も驚いた。 「お、覚えてるの?私のこと……」 「あれ?俺、なんでだ……?」 「俺……?」  女の子はとても複雑そうな表情だった。 「……ねえ、覚えてるの?私…、五観 夏葉のこと…」  ふと、俺の頭をよぎる。「またね」という言葉。 「俺、君と会ったことある……気がする」  幼い俺は、目の前に立っている幼い女の子に手を振りながら「またね」と、何度も、何度も…。
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