3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
ガタンガタン。
心地のよいリズム。それは俺の眠りを深いものから浅いものへと変えていった。
「う……、ああ~」
ぐうっと伸びをする、固くなった身体がほぐれていい気持ちだ。
高校一年の夏休み。彼女もいなく、暇だった俺は単身電車に乗り込み、特に荷物も持たず日帰りの旅をしてみようと思った。思い立ったら早い方なので、すでに電車に乗り込んでいるというわけだ。
窓の外をふと見てれば、見るところすべて山、山、山……。
ぼーっと窓の外を眺めていると、ふと不思議な気持ちになった。
「……なんか、見覚えがあるなあ」
不意に景色の流れが緩やかになった。どうやら速度を落としているようだ。
アナウンスもなしに、停車?反対側の窓の奥には無人駅。
何の気なしに、俺は外に出た。見渡す限り緑が目に入る。田舎だ。
しかし空気は澄んでいで、どことなく懐かしい。
「来た事あんのかな~……」
携帯電話の液晶を見てみると、時刻は一時を回ったところだった。
無人駅から一歩、外に出てみる。
「やっと来た」
俺は一瞬びくりと身体を震わせて声がした方向を見た。
そこに立つのは同い年くらいの女の子。腕を組んで頬を膨らませていた。
「遅いよ、ゆうくん」
懐かしさが熱波のように俺の身体を襲った。ゆうくん、いままで誰もそんな風には呼んだことがないのに、とても懐かしい感じがした。
「聞いてる?杉原 勇司くんっ!」
その女の子は俺にでこピンをした。
「あたっ、ひどいな、夏葉」
女の子は眼を開いて驚いた表情をした。そして俺も驚いた。
「お、覚えてるの?私のこと……」
「あれ?俺、なんでだ……?」
「俺……?」
女の子はとても複雑そうな表情だった。
「……ねえ、覚えてるの?私…、五観 夏葉のこと…」
ふと、俺の頭をよぎる。「またね」という言葉。
「俺、君と会ったことある……気がする」
幼い俺は、目の前に立っている幼い女の子に手を振りながら「またね」と、何度も、何度も…。
最初のコメントを投稿しよう!