白の奇蹟

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「おいしかったわ。ありがとう」 そう言って、あたしたちスタッフに、深々と頭を下げた。 お客様のほんとうのありがとうに、 あたしは少しだけ胸が痛む。 あれ?何でだろう。 弾むような足取りのカップルの背中を、見えなくなるまで見送った。 ありがとうって、言われると嬉しいはずなのに。 ヒロシのありがとうだけじゃなくて、おそらく二度と会うことのないお客さんに言われたありがとうも。 見えない背中に向かって問う。 あたしの「ありがとう」は、どうでした?て。 お客さんの弾むような声は、冬の透き通った空気に吸い込まれる。 もやもやしたまま、片付けを始めた。
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