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深夜の暗い路地に白い息が舞う。
薄汚れ、生ゴミの匂いがする路地にスニーカーの靴底を擦り付け、ゆっくりと壁に近づく。
「や、やめろ…っ」
光の当たらない壁から、血の匂いの混ざった悲痛な声がする。
「なんで俺が…っ俺は頼まれただけなんだ…っ!俺、俺じゃない!」
暗闇に慣れた目が、声の姿を捉える。
路地に座り込み、腹から流れ続ける血を押さえようとする右手も、赤黒く染まっている。
必死に訴える口の端からは、泡状のよだれがつき、高そうなスーツに流れて落ちる。
なんて、不様な姿。
なんて、愚かな姿。
―――もう、いい。
充分だ。
「やめ、やめ、やめてく」
パンっ
不自然に言葉が途切れ、高そうなコートの動きがとまる。
黒く、鈍く光る銃を安いダウンジャケットのポケットにしまう。
寒い。
白い息が舞う。
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