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やがて泣くのを辞めると、横笛は西に向かって手を合わせ、
「南無西方弥陀如来(なむさいほうみだにょらい)、満たされぬ想いで別れた滝口様とどうか同じ場所でお迎えください。」
と、この言葉を最期の言葉として川に飛込んだ。
かわいそうに、横笛はまだ十七歳という若さでこの世を去ったのである。
しばらくして、滝口が説法をして回っていると、木の枝に見慣れた着物がかけられているのを見た。
それは忘れもしない横笛の物だとすぐに分かった。
「横笛殿……!?」
滝口はハッとしてその着物を取り、川の中に入り横笛を探して下流へと向かって行った。
しばらく歩くと、岸に打ち上げられた女性の遺体を見つけた。
滝口は急いで駆け寄り、遺体を抱き上げた。
それは間違いなく横笛だった。
「嗚呼……横笛殿、なんという事だ……。」
滝口は横笛の遺体をひしと抱き締めて泣いた。
そしてそのまま横笛とともに川の中へ身を投げたのである。
滝口はこの時ほど世の中を無常だと思った事はないだろう……。
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