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さて、滝口、今や今やと胸うち騒ぎ待ち給ふ、心の中ぞあはれなる。
さるほどに、乳母(めのと)、ひそかに立ち寄り、かの文取り出して奉(たてまつ)る。
滝口、これを見て、嬉しさは何に譬(たと)へん方もなし。
その後、たびたび文どもありて、逢ふ瀬の中となり給ふ。
小笹(をざさ)のなかの一臥しも、契りそむれば、ある時は、里へ出(い)で、忍びて通ふ時もあり、またかぜのここちと言ひなして、忍び忍びに通はれける。
比翼連理(ひよくれんり)の契りをこめ、ことかりそめとは思へども、年来年月重なりける。
さるほどに、父の茂頼(もちより)、このことを聞きて、滝口を召してのたまふやう、「なんぢをば、いかなる人の聟(むこ)にもなし、たがひにたよりともなるならば、見る目も心安かるべきに、世になし者に逢ひなれ、身をいたづらになすことそ口惜しけれ。やがて送り候へ」と、たびたび教訓しけれども、用ひず通ひ給へれば、重ねて申されけるやうは、「さのみ聞かれ給はずは、恨み申すべし」とて、不孝の使ひありければ、滝口、このよし聞くよりも、
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