牡丹雪 ‐散り消ゆ泡‐

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空は白く濁っていて、まるで空が低くなったような印象を受ける。 天気予報では今年もホワイトクリスマスだと言っていた。 俺は足早に学校を出て、いつものように八千代の部屋へと向かう。 高校と俺たちが住んでいる学生寮は少し離れており、街一番の大通りを抜けなければならなかった。 商店街はいつも以上に活気づいていて、4日後に迫ったクリスマスに向けて最後の準備に取りかかっているように見えた。 帰る途中で、彼女の好きなイチゴのショートケーキをふたつ買う。 サンタクロースを模した店員の格好を見て、ああもうクリスマスなんだ、と再認識した。 見慣れた噴水が、今年も華々しくライトアップされている。 彼女の部屋の扉を開けると、遠くから小さく、おかえり、と声が飛んでくる。 つい、顔が綻んでしまう。 「ただいま」 それは在るべき幸せの形。 彼女はパジャマ姿で寝ていた。 俺が来るのを確認すると、八千代は上半身を起こす。 冬に入る頃になると、八千代はかなり快復していた。 ただ、偶にぶり返す熱のせいで時折、学校を休んでいた。 「ねぇ牡丹、答えて」 真剣な面持ちで八千代は言う。 「……ケーキの匂いがするわ。 何故なの?」 「俺からも質問がひとつ。 ……なんでお前はケースに入ってるケーキの匂いが判るんだ……」 俺はそう呟きながら、ビニール袋からイチゴのショートケーキを取り出した。 わぁ、と八千代は顔を輝かせる。 「ふたつもある! ふたつとも私のよね。ね?」 「なんでだ」 俺が言葉を言い切る前に、ケーキをひとつ頬張る。 その嬉しそうな顔を見て、俺はやれやれ、と溜め息を吐いた。 それは在るべき幸せの形。 いつからなのか。 気付けば俺は、もうあの夢を視なくなっていた。 忘れていた。 一一夢は、いつか終わるものよ?
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