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ひらり、ひらり。
雪が夕映えに舞い踊る。
橙を帯びた牡丹雪は、街中から流れるクリスマスソングに合わせるかのように、風と軽やかなダンスを披露していた。
12月24日。
街はクリスマス一色に染まっていた。街の至るところで楽しげな恋人たちを確認出来る。
その噴水は街の中心に位置している。クリスマス仕様に華やかなライトアップが施された、巨大な噴水だ。
その噴水の縁に腰掛けている、
ひとりの少女の姿。
雪さえも霞む、雪豹のような肌に純白のコート。首にもこれまたお揃いの白のマフラー。
手だけは何も纏っておらず、赤くかじかんでいた。
まだ高校生ぐらいだろうか。顔には幼さが残っているが、大人の片鱗が多少は伺えた。
彼女は手に、はぁっと息を吹き掛け、早く来なさいよ、と目の前にいない待ち合わせ相手に悪態を吐く。
嫌でも目につくその噴水は、普段から待ち合わせ場所に使われることが多く、もちろん今日も例外ではなかった。
一体この数時間で、何組のカップルを目撃したことか。
彼女は本日何度目かの、盛大な溜め息を吐いた。
今日は彼女にとって大切な日。
それこそ、人生で最も大事な1日である。
「牡丹、まだなの……?」と彼女は一息置き、コートのポケットから携帯電話を取り出す。
時刻、PM4:47
「……もう17分も遅刻してるじゃない」
携帯電話を勢い良く閉じ、全く何を考えているのかしら、と呟いた。
あたりを見渡す。
白の視界に入ってくる幸せいっぱいのカップルたち。
ああもう、と嫌気がさして、彼女は目を瞑った。
一一私よりも背が高くて、
生意気で、
優柔不断で、
それでも優しくて、
世界で一番大切な一一
待ち人の姿がありありと浮かんできて、少女は気恥ずかしさのあまり、頭を左右に大きく振る。
「早く、来なさいよ……」
少女の顔が紅潮し、その言葉には先のような刺々しさはない。
「牡丹……」
気を抜くと、視界が白んでくる。
一一せめて彼が私の許に辿り着くまでは、と少女は自らの身体を諭す。
ひらり、ひらり。
斜陽の紅を纏った牡丹雪が、
はらり、はらりと。
舞い落ちる。
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