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「あのさ、投げさしてよ」
俊二を前に我慢しきれなかったのか、遂に達也が主張した。
「うん。ええよ」
俊二は後輩である達也の態度に、嫌な顔もせずにそう言った。
その時一瞬見せた笑みは何かを企んでいる証拠だった。
「じゃあ、グランドと準備できるまで肩慣らしといて」
俊二の口調からは、達也を面白がっているのがわかった。
それでも彼は満足したのか、頷いて鞄からグローブを出す。
丹精に磨かれた手入れの行き届いた黒いグローブ。
達也はマウンド整備をする部員を見て、すっと瞳を細めた。
彼は……ピッチャーらしい。
翔汰は、達也が裕希を求める時に虚ろながらそう思い、
『投げたい』
と聞いた時から自信をもった。
そして今マウンドを恋しそうに見る少年を見て、確信した。
投げる事をこよなく愛し、そして一番ボールと接している時間が長いプレーヤー。
そんな少年は一目で野球が好きだと分かる。
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