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ふと、少年のマウンドを均す足がぴたりと止まった。
何を考えているのか、グローブの中のボールを手で回す素振りを見せている。
そしてゆっくりと瞳を閉じて深呼吸した。
何秒かたって彼の瞳が再び開かれた時、腕をあげて、フォームに入る。
少年は集中しきった表情をひとつとして変えず、座っている相棒に視線を逸らさない。
「――ほら、来た」
自分の発言が当たって満足そうな声を上げる俊二。
彼のその動作一つ一つは、綺麗で繊細だった。
腕が振り降ろされ、ボールが投げられる。
ボールの後を風が舞うように追いかける。
ミットに収まるボールから一段と乾いた音がした。
止めていた息を一気に吐き出し、裕希はボールの感触を確かめているようだった。
反動で前に足をついた達也は、裕希からボールを受け取り、自慢げにこちらを向く。
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