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「嘘とか冗談やない。今まで誰にも言わんかったからね」
凛紀はしんみりとした表情をして口を開く。
現実味を帯びた彼の話に、部員たちは耳を澄ます。
それほど凛紀のピッチャーの才能は捨てがたいものであり、西高野球部をプレーで引っ張ってきた人だったからだ。
普段の無口な彼にしては珍しく滑らかに言った。
「俺はあの試合で津田のピッチングを見て、自分にはこのポジション、向いてないって思ったんや。……だから、辞めた」
簡潔に紡がれた言葉はよく耳に入ってきた。
「それからサードが俺のポジション」
胸を張って彼ははそこまで言うとまたその形の良い唇を閉ざす。
「凛紀さん……」
「兄貴……」
あの時の瞳を思い出して翔汰たちは何も言えなかった。
凛紀の思いを改めて知り、そのまま彼の横顔を見つめる。
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