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「沖田ですが」
「沖田、ね」
謎の少年は再びボールをポケットに突っ込んで、翔汰の顔をまじまじと覗き込んできた。
黙りこんだ少年が次に口を開いた時だった。
「じゃあさ、沖田くん。一つお願いがあるんだけど」
にこりと笑った少年はその笑顔のまま翔汰に語りかける。
「は、はい!?」
思わず上ずってしまった声を翔汰は上げてしまった。
傍を通った生徒がこちらを振り返ってきたので、恥ずかしくなって顔を赤らめる。
そんな事は知らん顔で彼は
「あのさ、聞いてる?」
と不安げに此方を見てきた。
「え、まぁ」
「あんたの部活に、安藤っているだろ」
「……あぁ。荒井シニアの」
ふっと、翔汰の頭に安藤の顔が浮かんだ。
有名シニア出身の名捕手。
眼鏡の頭脳明晰な少年である。
そしてかなりの無口。
「そう。裕希に……あいつに伝言頼む」
「どうせ断れないんだろ」
呆れながら、翔汰は言った。
いつの間にかこの少年のペースに入っていたからだ。
「もちろん」
悪戯っぽい笑みを浮かべる少年。
翔汰はこのように自由気ままに行動する少年が不思議で仕方なかった。
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