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「あなた、さようなら。この子は頂いて行くわ」
突然、綾香が聖世の手首を掴んだ。
聖世は予想していなかった綾香の突然の行動に抵抗する事が出来なかった。
まるで、それが合図だったかのように、聖世の足元に異空間の穴が開く。
落とし穴に落ちていくように聖世の体は綾香と共に異空間へと投げ出された。
「聖世―!」
落ちていく瞬間、玲旺の表情が聖世の頭の中に刻み込まれた。
玲旺が聖世の元に走ってくる。
その時、玲旺の表情は苦しみで満ちていた。
それは聖世を失う事への恐怖だったかもしれない。
「アンピトリーテ!聖世を返してくれ!」
玲旺の言葉は届かなかった。
異空間の落とし穴は聖世と綾香を呑みこむと、すぐに閉じられてしまったからだった。
また聖世を失うかもしれない、その恐怖が玲旺に正常な判断力を失わせた。
「聖世、聖世、聖世、聖世!」
聖世の名前を呼び続けながら玲旺は聖世と綾香が消えた床に自分の拳を強く打ちつけた。
玲旺の意志とは別にポセイドンの力が暴走を始める。
東筑摩高校内外の水という水が突然溢れ出し、ものの十分ほどで校舎もその周辺も水浸しになったのだ。
その光景は小規模な洪水を思わせた。
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