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「じゃあ、あとは二人に任せたぞ」
『はい』
私と隼くんは声を揃えて返事をする。
今日一日、私は緊張しまくっていた。
(私の記憶……その手掛かりは、隼くんが……)
そう思うと、変に焦ってしまう。
運命の時は、思っていたよりも早く訪れた。
「神坂さん、それ、こっちだ」
「え? ああ、よいしょっ、と」
隼くんがクスクス笑う。
「な、なによ!」
「いや、『よいしょっ』って、似合わないなって」
「なっ……!?」
顔が熱くなる。
私、そんなに似合わないのだろうか……。
「だってさ、神坂さんって、昔から──」
「!?」
「──い、いや、なんでもない……」
もう遅かった。
私は確信した。彼が『大宮隼』だと。
「……ねぇ、隼くん」
「…………」
「小学校高学年のころのこと、話してくれる?」
「…………」
私が尋ねると、彼は黙ったまま廊下に出てしまった。
「待って!」
あとを追う。走りはしないので、逃げる気はないみたいだ。
多分、私を誘導している。
そして、たどり着いた場所は、
「屋上……?」
屋上だった。
「……全部、話すよ」
彼はそう言い、屋上の真ん中まで歩いて行った。
冷たい空気が、雪をさらに冷たくする。
「神坂さん……いや、沙莉。俺は昔、交通事故に遭った」
「……うん」
それから先は、私がみっちーと佳代から聞いた内容だった。
そして、その話を終えると、彼は夜空を見上げた。
「……そして、あの交通事故の日、記憶を失ったのは俺だけじゃなかった」
「え……?」
彼は夜空を見上げたまま、拳を握り締めた。
「……本当は、そのまま忘れたままにしてもらいたかったんだけど、墓穴を掘ってしまったからな……言うよ」
彼の視線が私へと移る。
「あの日、沙莉、君は俺との思い出を全て消した。……それが、幼い君の、唯一の防衛行動だったんだ」
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